「巌さんのこと」

昨年に続いて、今年もステイホームが
中心の日々が再び始まりました。

でも、どこか遠くに行かなくとも、すぐそこには
清々しい木々や色彩豊かな花たちが、生命を
謳歌しています。

私たちもその中に分け入って、今しかないこの
美しい季節を楽しみたいですね。

先月1年ぶりにギャラリーをオープンし、
お客様と久しぶりに同じ場を共有することができました。

それは、改めて自分の原点に立ち戻れたような
感慨深い経験でした。

その中から思いを馳せたのが巌陶房さんのことでした。

今日は、ギャラリーKAIの原点ともいえる
巌陶房さんのお話をお送りします。
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巌さんのこと

ある日のこと、一枚の花びらが、風に乗り、ここ、
半地下のギャラリーのパティオにまでひらひらと
舞い降りてきた。

近くの染井霊園から流れてきたのか、
黄色い山吹の花びらと交差するように、一つの
白いものが目についた。

蝶々だ。

しばらくの間ゆらゆらと浮遊していたかと思うと
8の字を描くようにして、いつの間にか視界から
消えていった。

けれどもその白い残像は、しばらく
私の目に焼き付いていて、強烈な気配を
残していた。

そして、私の記憶はあの日にまで
さかのぼる。

蝉の無く声がかしましい8月のある日。

私は信楽の山里にある工房を訪ねていた。

器のギャラリーを開こうと決心をし、まず
初めに思い浮かんだ陶芸の地が信楽。

といっても作家で知り合いがいるわけでも
どこかの工房にあてがあるわけでもなかったから
とにかく信楽焼きを扱う店に片端から入っていった。

とある店の、棚に並んでいる器の前に来た時に
私は思わず立ちすくんだ。

「巌さんだ。」

それから、案内所で貰っていた工房マップを
頼りに車を走らせた。

巌陶房の工房を訪ねるなんて
あまりにも恐れ多すぎて、それまで
私の脳裏には1ミリも思い浮かんでいなかった。

それが器を目の前にした途端、私の身体は
何かに弾かれたように、動き出したのだ。

懐かしい日本の原風景が残っているような
山里にその工房はあった。

ちょうどその時、庭仕事をしていたのが
奥さんのフミ子さんで
突然工房を訪ねたこちらの非礼を
全くものともせずに、笑顔であたたかく
迎えいれて下さった。

その気さくなお人柄に、最初は緊張していた
私も、やがて、巌さんの器に心打たれた日から、
どれだけ愛し使ってきたかをフミ子さんに熱っぽく
語っていた。

その頃から体調を崩されていた巌さんは、
今、思えば隣の部屋で臥せっていたのだった。

襖越しに聴こえてくる私たちの会話に
無言で耳を傾けていたに違いない。

ひとしきりお話をした後で、少しの間
その場を離れていたフミ子さんが
一抱えの器を持って戻ってきた。

それは、たっぷりとした汲み出し4客だった。

「これを持って帰ってもらってと言っています。」

巌さんとの初めての邂逅、そしてそれが最後となった。

以来、我が家ではお茶を飲むとなれば
この汲み出しを取り出す。

そしていつもそうするように、両手の掌で
器を包み込む。

そうすると、お茶の温もりが掌を通して
うっすらとこちらに伝わってきて、
心がほっと和むことを知っているから。

そして、あの昼下がりの、薄暗い
座敷で過ごした時間を思い出すのだ。

いよいよお暇しようと腰を上げた時、
思い切ってギャラリーを始めたいということを
伝えた。

すると、フミ子さんから意外な言葉が
返ってきたのだ。

「いつでも連絡ください。」

これから初めて店を開こうというど素人の私に
何の屈託もなく、そう言葉をかけて下さったのだ。

右も左も分からない私は、それにどれだけ勇気づけられたことか。

フミ子さんの言葉には、巌さんの気持ちがそのまま
重なっているような気がして、
私の背中を大きく押してくれた。

それからほどなくして、巌さんはこの世の人ではなくなった。

それから何年か経って、個展の打ち合わせに工房を
訪ねた時だった。

いつものように、仕事の話はそっちのけで、皆で漫才
よろしくしゃべり昂じているとき、どこからともなく
白い蝶々が迷い込んできて、ひらひらと皆の頭の上を
舞っている。

「あっ。。。」

皆が話を止めて蝶々を目で追っている。

と、そのうちゆらゆらと下降してきたかと思うと
私が掃いていたスニーカーの先にふわりと
舞い降りた。

「巌さんや。。」

フミ子さんがつぶやいた。

工房が一瞬静まり返っている。

何度か、羽を閉じたり開いたりしていた蝶々は、
やがて、工房の入り口に重なっている
素焼きの器たちの間を縫って外に飛んで出て行った。

私は、工房を訪ねる度、いつも巌さんはどこかに
いるような気がしてならなかった。

なぜって巌さんは初めから「気配の人」だったから。

私にとっては永遠に襖一枚を隔てた向こうに生きている人なのだ。

だからいなくなったりしない。

この日の蝶々は、巌さんのメッセージ。

私もそう思いたかった。

「いつまでも仕事せんと、しょうもないな。」

蝶々がいなくなると、たちまちいつものあの
賑やかな関西弁がはじまった。

そう、これが巌陶房。

天空も下界も一緒になって
やんややんやと、今日もたくさんたくさん
作り続けている。



 

| gallerykai | 巌陶房 | 21:38 | comments(0) | - | - | - |
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別物




展示会では、そこにない大きさの器の
ご注文を戴くことがしばしばあります。

今回は2点。

大振りの器に少し盛りつけるのが好き
という方のために巌さんが作って
下さった直径24cmの大皿と大鉢です。

今回の個展ではあえて大物は外しました
から、この大きさのものを見た時は
かなり新鮮でした。

デザインは同じでも大きさが違えば
全く別物ですね。

良いです。

風格さえあります。

そういえば以前、通っていた陶芸教室の先生が「大きいものもないとね」と
よく話していたことを思い出します。

大きなものには作り手の力量が
現れるものなんですね。

今頃、どんなお料理が盛られて
いるのかな。
今度お会いした時に聞いてみましょう。










| gallerykai | 巌陶房 | 15:16 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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器も天日干し




4月の巌陶房展でご注文戴いていた器が
続々と出来上がってまいりました。

出来れば今月末中旬を目処にとお願い
していましたから、窯から出たての
ホヤホヤを送って下さったので...

天日干しです。

器を天日干し?と思われる方も
多いかもしれませんね。

巌陶房の土は非常に染み込みやすい性質
があるため、本焼き終了後、染み込み
にくくするための処理をしています。

これが乾くのに数日要するのですが
こちらに届いた時は生乾き状態。
よって天日干しです^o^

あっ、普段、土ものの器を使う時も
洗って布巾で拭いたら我が家では
すぐにしまわずにしばしそのまま外に
置いて完全に乾かします。

湿気が残っているとカビが生えてしまう
こともありますから、皆様もどうぞ
お気をつけくださいね。



お皿も裏返したら、こんなところにも
ワンポイントが。心ニクイ!












| gallerykai | 巌陶房 | 20:52 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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六角ぐい呑み
先日の巌さんの個展でも話題に
出ておりました六角ぐい呑み。

いえいえ、私はぐい呑みとしては
使いにくそうだからもっぱら豆鉢で
使ってま〜すと言いましたが、果たして
ちゃんとこれでお酒を飲んだことが
あったのやら無いのやら
分からなくなってきた。

というわけで、呑んでみましたよ。

はい、お酒は勿論、昨日から話題に
出ております「春鹿」です。

で、これが・・・

(落語ならさも、美味しそうに扇子
で、きゅい〜っとやるところですが)

なかなかよござんす。

まあ、どこの角のところで呑もうか
迷っているうちはまだまだですよん。

さりげなくつつつぃ〜っといけば
なかなか玄人っぽくてよろしいような。

一杯の量がとても少ないので私のように
あまり強くない者にとっては緩やかに
酔えるというのも利点と言えましょうか。

いえね、少ないからといって油断
しているととんでも無いことに
なりそうですが!

そういえば瀬戸の宮地さんは、
「台付き盃」なるものを
作ってましたね。
底が三角になっていて台が無ければ
自立しない。即ち一度手に取ったら
基本、飲み干しましょうという盃です。

こう考えてみると酒器の類は遊びの幅
が器の種類の中ではぐぐんと増えて
楽しい器が多いですね。

今度、変わり種ぐいのみ展なんぞ
やってみても面白いかもしれません。



| gallerykai | 巌陶房 | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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巌陶房 うつわ展 終了しました
期間中は、沢山の方にお越し戴き
ありがとうございました。

本日、無事に終了致しました。



今回の器展を通じ、巌さんの器を
ずっと大事に使い続けて下さっている
というお話を沢山伺いました。

巌さんの器が皆さんの暮らしと
共にあることを改めて実感すること
が出来ました。

今回、仲間入りした器たちは新たな
時を紡いでゆくのでしょう。

ギャラリーに足を運んで下さった方、
ブログを読んで下さった方、
そして、この個展のために全力で
作って下さった巌陶房さんに
感謝を込めて。。。








| gallerykai | 巌陶房 | 23:36 | comments(2) | trackbacks(0) | - | - |
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ギャラリーをやっていて思うこと
ギャラリーを再開してつくづく
思うこと。

ギャラリーに足を運んで下さった
方にとって作品との出会いは勿論の
こと、

こんな面白い人と話ができた とか
こんな面白いこと知らなかった とか
なんかわくわくすることっていっぱい
あるんだ
とかとか。。。

新たな世界の扉が開くきっかけに
なったら、もう本望!という感じ
です。

それは、ギャラリー店主である私が
皆さんから戴いているものだから。

ギャラリーKAIが目白台にある時は
「好奇心で突き進む」というお題目で
ワークショップやお話会などを
開いていましたが、今もその気持ちは
変わりません。

看板も出ていない都会の小さな小さな
場所ですが、何かひとつ、心の中に
持って帰れるものがあるように。。。

そんな場になったらいいなと
思っています。

さて、巌陶房 うつわ展も今日と明日、
残り2日間となりました。

雨も上がって青い空が広がっています。

今日は暖かい一日になりそう。
お散歩がてらにぜひ・・・!















| gallerykai | 巌陶房 | 12:24 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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赤の階層
今回の器展のメインカラーの一つ
に「釉裏紅」があります。



先代の巌さんが作った釉薬。
この赤い色は巌さんの代名詞と
といってもいいかもしれません。
今回はお皿やスープボウル&ソーサー
蓋物など作って戴きました。

窯のどこで焼成されるかによって
この赤の出方が変わります。

今回器が届いた時、若干渋めの色目に
仕上がっているなというのが私の
最初の印象でした。

ところが、撮影をしたくて半地下の
ギャラリーから1階の明るい場所に
移した途端に、みずみずしく鮮やかな
赤色に変化したのです。

何層もの色の粒が階層となって器の
表面を覆っており、光の量によって
それが表に出て来たり出て
こなかったり。

漆の朱がその奥に黒を秘めているように
巌さんの赤も奥深い。

それを実感できた日でした。

どうぞ、釉裏紅の器をお持ちの方は
いつもの場所から連れ出してその
変化をお楽しみに戴ければと
思います。







| gallerykai | 巌陶房 | 23:34 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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本日、ギャラリーはお休みです
今日、お休みを戴き、明日から土曜日まで巌陶房展オープンです。
皆様のお越しを楽しみにお待ちして
おります。

今朝は染井霊園を散歩してきました。
桜、満開です。

今の季節、街を歩くとこんなにも桜の
木は多かったのだと毎年、気づかされ
感動します。

どこかにわざわざ出掛けていかなくて
も身近に慣れ親しんだ桜の木が一本は
あるのではないでしょうか。。

今年も無事にこの季節を迎えられた
ことに感謝して。。。


| gallerykai | 巌陶房 | 09:51 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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一気に
個展も折返し地点を過ぎたところで、
今日は一気に展示品をご紹介して
ゆきますね。

丸鉢





直径:16cm
高さ:6.5cm

一人分の丼ものもいけそうです。

角皿
絵柄は三種類。









一辺の長さ:16cm
高さ:3cm

深さがありますから汁気のある
ものでも大丈夫。

奈良から届いた初物の筍を
盛り付けました。



片口



直径:8cm
高さ:9cm

巌さんは片口冷酒器と言っていますが
湯冷ましやドレッシング、おつゆなど
を入れても良いですね。

カップ



直径:9cm
高さ:9cm

私が普段から愛用しているカップ。
とても持ちやすく口当たりも優しい
です。

そり鉢





大:
直径:20cm
高さ:6cm

小:
直径:15cm
高さ:5cm

和食党には使い勝手の良い小鉢と
盛り映えする中鉢です。
絵柄はこれからの季節にふさわしい
爽やかな青葉。

お問い合わせがありましたらお気軽
にメール下さい。

さて、今日は朝一番に六義園に
行ってきました。
しだれ桜は、今が満開。
今年も見事な花を咲かせています。
夜はライトアップされ、その姿は
一変。妖艶さに圧倒されます。







| gallerykai | 巌陶房 | 23:02 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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折り返し地点
今日は朝から雨がよく降りました。
風も強かったようですが、半地下
のここまでは、風も殆ど届かず
平穏な一日。

夕方、晴れ間が覗いた一時、鉢植え
を見ると、アイビーの新芽が沢山
顔を出していて、雨露にきらきら
していました。




こうやって一雨ごとに、水は温み、
そこかしこに生命が春を謳歌して
います。

さて、巌陶房展も折返し地点。
今日はディスプレイをちょっと変えて
みました。

すると、あら、不思議。
今日まで一点も出ていなかった
アイテムを購入された方がいました。

こういうことってあるんですね〜。
どことなく動きにくい場所が
あるようです。その展示品によって
変わりますけれども。

さて、明日は朝一番で六義園に
行ってこようと思っています。
うまく入れましたら、しだれ桜の
写真をアップしますのでどうぞ
お楽しみに!


| gallerykai | 巌陶房 | 23:11 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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